特定非営利活動法人浜松NPOネットワークセンター

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思いをつないで力に変えよう

こうなったらいいな、という思いをつなぎ、社会的な力に育てることを目的として1997年に市民の力で設立したN-Pocketは、こども・障がい者・高齢者・外国人と、常に少数の側で、共に寄り添うことを活動の原点としています。また当事者が問題提起し、市民と共に解決する自立した社会を目指して、福祉・環境・教育等、さまざまな分野で横断的に活動を行っています。


―NPOだからこそー
利用者の意見を反映させるために

こうした多様な課題に取り組む中で、高齢者・障がいのある人達の社会参加をすすめるために、ITによる情報格差の是正に目をむけるようになったのは、移動がままならない高齢者たちから、パソコンを覚えたいという希望が出され、それをかなえるために車椅子で出かけるパソコン講師と大学生の外出支援ボランティアがチームを組んで出前講座を始めた頃からでした。しかし、当事者同士の「循環の仕組み」を取り入れたこの活動は、思うようには進まず、今一つの力不足を感じながら細々と活動を続けておりました。

2000年4月、そんな活動がきっかけとなったのでしょうか、まだまだ全国的には数も少なかった「障害者のためのマルチメディア情報センター(以下MMC)」の管理運営を静岡県から委託されることになったのです。こうして、前々年度に開設されていた中部MMC(静岡市)に、東部(沼津市)と西部(浜松市)が加わり、県下に3箇所のMMCが全てNPO委託となって出揃いました。

センターと言ってもたった五台のパソコンがあるだけのスペースなのですが、高価な専用ソフトや周辺機器が揃うことになり、ただの委託事業ではなく、NPOだからこその事業展開をするチャンスだと考えました。特にPC支援体制の遅れていた視覚障がいのある人に焦点を合わせたいと思っていたことと、当事者の意見を聞くことなくこうした施設の整備が進められることに疑問を持っていた私たちは、早速浜松盲人福祉連合会のメンバーと連絡をとり、どんなOSでどんなソフトをいれたらよいか、何に配慮すべきか等、県の担当者を交えて検討会をひらくことにしました。その結果、当事者のニーズに合ったPC環境を整備することができたのです。

そしてこのような体制を常時とることが大切だと考え、市民からなるMMC委員会を独自にたちあげ、当事者の意見が直接反映する仕組みを作りました。これが結局ネットワークを強める元にもなっていきました。


「特別な場所」でないことの大切さ

また、この種の障がい者のための施設は当事者かその支援者のみが利用する「特別な場所」に設置されることが多いのですが、西部MMCは若者向けの商業ビルの五階に他の県の施設と一緒に、開かれた形で設置されました。ただあまりのオープンさに雑音を遮断できないので、透明の可動式スクリーンの設置をお願いしているのですが、施設管理の縦割り行政がバリアになってなかなか思うようにはいきません。こうした問題点はあるものの、とにかくこのオープンさには大きな意義を見出すことが出来ます。思わぬ形で心のバリアフリーを進めているのです。

例えば、開設当初は五階フロアのあちこちに背の低い観葉植物が置かれ、弱視の人にとってはバリアとなっていたのですが、半年もするとそれらが壁際に寄せられるようになりました。当初、この件に関しては配慮の必要性を訴えていましたが、結局現実にMMCの利用者の姿をみて自然と、されるべき配慮が理解されたのだと思います。障がいのある人が街に出て行くと街が優しくなるというのは本当です。


熱い志を持った仲間と共に

 施設環境の整備と並行して、今後の活動を充実させるためにN-Pocketの自主事業として福祉情報支援技術者の養成事業にとりかかりました。企業の助成金と市の支援を受け、PCリーダー養成講座を企画しましたが、マウスを使わないPC操作や、音声ソフトを使ったPC操作などの技術習得だけでなく、それぞれの障がいにおいてどんな配慮が必要か、当事者を主な講師として実施しました。昨年実施した第三期の修了生を合わせ六十人以上が受講しましたが、その後の活動にかかわってくださった方は約三割、そしてその多くは音訳・点訳のボランティア活動をすでにしていた方々です。
さらに講座の講師を務めたしずおかパソコンボランティアねっとのH氏がステップアップ講座をボランタリーに開き、講座修了生のレベルアップを可能にしています。こうした連携の強さもH氏の熱心さに負うところが多く、MMCを取り巻く人材の幸運を思うばかりです。

幸運といえば、西部MMCの常勤のスタッフにも恵まれ、自主的にはじめたミニ講座が好評で、最近ではスタッフ一人では対応できないほどの利用者が来訪します。そんな時は、前出のパソボラ団体や障がい者団体のメンバー、及び講座修了生が参加するMMCネットメーリングリスト(以下ML)を活用し、スタッフの支援をお願いしています。小・中学校からの見学が入るようなときは、MMC委員会の委員長でもある全盲のI氏が、おしゃべりするPCを操るデモンストレーションを行い、バリアフリーやユニバーサルデザインについての話しを子ども達にして下さるのです。


ない力は外から借りる

開所一年もすると知的障がいの青少年たちも利用するようになりました。開かれた施設ゆえの利便性で仲間が口コミで自然と集まり、スタッフと安心してお話したり、遊んだりしていける止まり木的な役割も果たすようになっていたのです。この若者達はN-Pocketが行っているジョブコーチ事業の有志が立ち上げた余暇支援グループ「くらしえん」の中で活動を始めました。そしてMMCで自分たちの余暇活動のためのチラシなどを作成しています。つまり、MMCから次のレベルの受け皿へとつなげることができたのです。

このように、PC操作技術だけでなく、MMCとして果たせる本質的な活動は何なのか、自分たちが負えない活動を何処に手渡して行けば良いのか、そのために誰と連携する必要があるのか、といった問題を月一回、スタッフとボランティアとで行う会議で話し合い、ない力は外から借りる、という発想をもって、それぞれが持つネットワークで解決法を考え、継続できる活動を心がけています。


ニーズに合った事業提案を施策につなげて

2002年、公開プロポーザルで県の事業費を獲得し、こちらの企画どおりに、ニーズにあった在宅PC講座と、従来の通所とあわせ二つのタイプの講座を実施することができました。在宅PC講座では受講生の介助を別のNPOに事業委託できましたが、MMCで行う通所タイプの就労支援PC講座では、MLでボランティアアシスタントを募集しました。実施事業以前に生ずる問題解決のために、当然このようなアシスタントやガイドヘルプの問題が生じてくるのです。多くの場面で、ボランティアをあてにしなければ、事業の質を維持できない行政の委託事業は、問題があると感じています。実際に、盲ろうの方の在宅PC支援においてはすでに制度としての触手話通訳の派遣によって可能になったのです。

しかしながらとりあえずは、今年度の委託事業の中に、昨年度までのニーズに応えた事業内容が功を奏し、最初から在宅PC講座が組み込まれておりました。今後は定着した形で実施できると期待しています。
 このようにNPOとして、取り組む事業を常に評価し、その結果を踏まえて行政に提言していく姿勢が大切です。さらに、利用者の選択が可能なように、ボランティア、NPO、企業による無償・有償の支援、そして制度としての支援等、多様なサービス形態が必要だと考えます。


ネットワークとコーディネーター

N-Pocketにおいては、MMC関連事業のほかに、職業リハビリテーション事業、ジョブコーチ事業等を行っており、これらの事業スタッフ間レベルでは、ITを活用した就労の可能性を感じるケースの話もときどき出てきています。
静岡県においても、単一の場当たり的なものでなく、多面多岐な事業と組み合わせ「障害のある方のIT活用支援事業」体制を充実させ始めました。県内三箇所のMMC、授産的な事業力をもつことを将来の課題としたパソコンリサイクル事業、在宅ワーカー支援事業等がそれらです。これらが部局を超えたものとなり、しっかりとしたビジョンが描けるコーディネーターがつけば、就労に向けて加速的にそれぞれの事業が生きてくるでしょう。

私たちは、同じ障がいを持つもの同士で教えあうことも含めた「循環の仕組み」をこの就労支援体制の中に取り入れたいと思っています。今まで重点的に行ってきたコミュニケーション支援に加え、新たにITを活用した就労支援という課題を抱えてさらに、ネットワークを強化する必要性に迫られています。

井ノ上 美津恵
特定非営利活動法人
浜松NPOネットワークセンター

「リハビリテーション 2004年1月号」=特集 通信機器によるネットワークづくり2=(社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行)より転載